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相応のリスクを負え - 書評 - 『ノマドと社畜 ~ポスト3.11の働き方を真剣に考える』谷本真由美(@May_Roma)

木曜日, 2月 28, 2013
世の中上手い話はない。こんな真実を人に言われないと分からない人も多いのかもしれない昨今。
本著はTwitterで @May_Roma で有名なメイロマこと谷本真由美女史の書き下ろし本である。
彼女のことをフォローを始めたのは既に1年前以上になるけど、その辛口っぷりは清々しさすら覚える。時々理解出来ないこともあるけど、良い意味でのアジテーターであり、その部分がフローで流れていくTwitterとの相性が良いのだろう。
特に、彼女が住んでいるイギリスの情報は面白いし新鮮である。


ノマドと社畜 ~ポスト3・11の働き方を真剣に考える
  • 作者:谷本真由美(@May_Roma)
  • 出版社:朝日出版社
  • 発売日: 2013-03-09
さてそんな彼女の本は単行本も決まったようである。今回、読んだのはKindle版。
本著はノマドの現実から始まる。

ノマドにフリーランチはない


まず何故ノマドというものに若者が惹かれるのかは、震災があり若者が今のままではいけないと自分の道を模索してる中で、出て来た感情だろうとの指摘に同意

その後も、自身のイギリスでの経験から甘っちょろい日本人のノマドへの憧れを粉々にしてくれる。
実務をされている方の指摘だから分かりやすく、説得力がある。
確かにインターネットが普及し個の強さで競う時代になった今、その戦術も教わっていない日本人にとって障壁になるものは多い。
実力もないのに夢を見てノマドになるだけでは非正規雇用と変わらず生活が苦しくなるだけだと指摘する。
実力だけの世界になった時、自分の成果物でしか判断されなくなるというのは、本当に実力のある人達以外は辛いのかもしれない。
しかし、成果物以外で評価されるのは違う気がするのは変だろうか?
だから辛くともそれで良い気もする。リスクを取った分はリターンを得る可能性も上がる。それはトレードオフでノマドだけでなく世の中にフリーランチはないという事実なのである。

契約社会と個人主義社会

仕事の発注先と事前に責任分界点(役割分担)、成果物、納期、仕事のやり方、守秘義務などを事細かに決めます。客先で他の人の仕事を無償で手伝ったり、サービス残業をするということもあり得ません。あくまで事前に合意した「取り決め」の下で仕事をするのです。
契約を破った場合はペナルティがあるので皆がそのルールを守るし逆に「会社にいる」だけでは評価対象にすらならない。
『演繹的な解雇』constructive dismissalという言葉が出てくるが、これは断ることが苦手な人は知っておいた方が良いだろう。
それと、個人の責任における自由が担保されている社会だからこそノマドが成り立つとあるが、これは単にイギリスでは資本主義が実践されているということだ。
学者でも日本型資本主義の問題点ばかりをつつく人は多いが、日本は資本主義ですらないことに気付いていないということが恥ずかしい。

海外ではインターンを巡って強烈な格差が開いていることは知らなかったので新鮮だった。実力主義と新卒一括採用の廃止により経験が何よりも就職に有利になる。だから経験を積むために学生はインターンでただ働きする。逆に1ヶ月インターンする権利がオークションで60万円で落札される事例も出ている。

ライフスタイルジョブの紹介のコラムがあるが、これはまだ製造業に派遣社員が旺盛な頃、自らそれを選んで金を稼ぎ、金が貯まったら海外に行って自由に生きている日本人にも通じる話で珍しい訳ではない。キャバ嬢なんかにもそういう子は多い。
企業にとっても、雇用を調整する弁のような存在は不可欠なのである。これが出来なくなった今は、派遣社員の穴を残った社員達の残業で埋めている状態なのだ。誰得?
規制をすると結局、非正規社員から正社員化をして、最終的に新規一括採用人数の凍結や非正規社員を解雇するしかなくなった日本郵政の二の舞のようになってしまう。

「正社員化」で職が減った日本郵便
6500人の契約社員を正社員化した日本郵便が、今度は数千人規模で彼ら非正規の雇い止めをするという。既に1200名の新卒採用凍結は発表していたが、それでも足らずにクビを切るわけだ。「正社員化→新卒採用凍結→非正規クビ」という、絵に描いたような三段落ちである。
ただ、著者の言う通り高齢者の介護をしながらも出来る仕事の拡充や専門分野の教育に力を入れる柔軟な働き方を進めていくしかないというのは同意である。
しかし、ではどうすれば良いのか?に対する著者の解答は英語の学習方法や親方に揉まれろなどちょっと物足りない印象を受ける。
前半のノマド幻想から目を覚ませて的なことをいう著者の主張だと、ノマドは厳しいから若者は今の日本だと正社員を目指すのが合理的となるが、ライフスタイルジョブや最後に、
人生はたった一回しかありません。自分がやりたいことに自分の時間を使うのが一番良いと思う。...略 」
という映画監督の言葉で締める辺りではノマドや起業を肯定と思わせるものであり、若い世代が社会の中心になれば社会は変わるという意見もあり、著者が『ノマドと社畜』に対して部分肯定で部分否定なのが分かる。
この辺りの意見が曖昧な所は彼女もまた日本人であり日本人らしさがあると感じ取れるのでそれはそれで面白い。だから啓蒙的な切れ味鋭い意見が読みたかった人は物足りないかもしれない(笑)意外に普通の本だったという印象。
ただ本自体はブログの延長と言った感じで1時間も掛からずサクサク読みやすく、普段本を読まないそうにも読めそうな所は狙ったのだろうなと。

★★★☆☆







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