0 コメント

想像力の可能性 - 書評 - 『機械との競争』エリク・ブリニョルフソン, アンドリュー・マカフィー

月曜日, 3月 11, 2013
テクノロジーによって時代がどのように変わっていくのかを想像出来る一冊。
しかも、200ページない文量で一気に駆け抜ける。

機械との競争
  • 作者:エリク・ブリニョルフソンMITスローンスクール経済学教授),アンドリュー・マカフィー(MITスローンスクール)
  • 出版社:日経BP社
  • 発売日: 2013-02-07
3つの捉え方

本書はまず失業者が減らない原因を学者達が、どのように捉えているかということを冷静な分析から始める。 

循環説 ... 失業者が減らないのは景気が悪いからで、まだ景気が良くなればおのずと雇用は生まれるだろう説。クルーグマンなんかがそうだ。 
停滞説 ...  技術の進歩が、頭打ちになっているので伸び悩んでいるのがそのまま雇用が減る原因になっている説 
雇用喪失説 ... 停滞説の真逆で、技術の進歩が進みすぎている為に、それを使う側であるはずの人間の進歩が遅れている説 

著者達は3つ目の雇用喪失説であるとはっきりと述べている。 そして指数関数的に伸びたテクノロジーであるハードウェア、ソフトウェアの進化はムーアの法則通りまだまだ止まることはなく今のままだと雇用の喪失自体を止めることは出来ないとする。 つまり人間に出来ることが減っているのである。 そして実際は経済価値として小麦の生産量の増加など簡単にいかない数値化出来ないようなものが増えていることも一因であるとする。(平均寿命の伸びなど) 実質GDPの平均が上がっているが、中央値は逆に下がっている。 これはつまり所得格差が広がっている。

スーパースターとそれ以外全て 

テクノロジーの進化で失業者が増えるのは当然で、1822年にもラッダイト運動という自動織機を破壊して回る活動があった。機械が進化すると、同じことをしている人間の収入は下がり続け最低生活水準を下回ってまで働かないので失業する。
グローバリゼーションが進むと、レディガガのようなスーパースターには今まで以上に富が集まり、逆にローカルだけで人気のスターは職を失うようになる。 それは企業でもそうで、主要何社かが帝国のように世界を席巻する。そしてそれが製造業なら利益で設備投資をする。その設備がされに人間の雇用を奪っていく。
そのような格差が開く一方では限界効用の逓減で全体の経済規模は縮小してしまう。 
しかし、雇用に対する一番需要が減っているのは中間的なスキルの層でスキルの低い層の仕事で機械化出来ない仕事はそこまで需要が減っていない。ただそれも時間の問題である。

機械とパートナーになれるか 

ここからが「ではどうすればいいのか」である。
著者は機械にはない人間の強みは直感と想像性と指摘する。 それはチェスで人間がコンピューター(ディープブルー)に負けてから、今もコンピューターだけ訳ではないという話でまとめている。 今チェスが一番強いのは普通のコンピューター2台とそのパターンから提示された答えを選択する人間との組み合わせだという。

マイクロマルチナショナル 

どんどんコストが安くなる機械を使いこなせる人間や企業が増え続けることが、重要である。 超小型多国籍企業(マイクロマルチナショナル )が増えるとその合計はいままで成功したベンチャー1社をはるかに超える雇用と富をもたらす。 デジタルで新たに作った製品は、次の起業家が使えるパーツになる。 そして、その企業が市場そのものを新たに想像する。 その組み合わせ爆発こそが指数関数的に進化するテクノロジーを凌駕することが出来る唯一の鍵である

STEMからSTEAMへ

一番地味ながら上記のマイクロマルチナショナルを増やしていくには、人的資本への投資が不可欠である。つまり教育である。 イノベーション力を高めるにはSTEM(科学、技術、工学、数学)に+アートを加えたSTEAMへの転換が必要。

提言 

ここは、是非本書を読んで欲しい。 簡単に言うと、教育や起業家の創出、福利厚生と雇用の分離、インフラの整備、補助金の廃止、著作権保護の見直し等々目白押しである。


以上が要約である。

一部の人にとっては耳を塞ぎたくなる現実かもしれない。
しかし面白いのは提言の項で、アメリカは日本なんかに比べるとデジタル教育も進んでいるし、規制も少なく、補助金も少ないはずだ。それを更に押し進める先に道があるというのが、アメリカの懐の深さだなと思っていたら、似たような指摘を本書の最後に小峰隆夫氏が書いてあった。
iPhoneの登場で、日本ではガラケーが一掃され、それと対抗するようにAndroidが普及したが、そのどちらもApple、Googleというようなスーパースター企業同士の争いであり、そこに東芝やNECの名前が決して出て来ることはない。
「デジタルで新たに作った製品は、次の起業家が使えるパーツになる。」とあるが、これはつまりプラットフォームを通したエコシステムを持つ企業が最強ということである。
しかし、それも解ではなく、解は超小型多国籍企業を増やすことであると提言する本書は日本の今後にとっても非常に参考になると思う。 
本書のアメリカでの初版は2011年10月。 なので『2013年現在』のことを指摘している訳ではないが、時代の流れとしてはまさにこの通りだと思われる。しかし、2011年に読みたかったという気も否めないが。

★★★★☆
Share This To :
 
Toggle Footer
Top