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結ばれた先に - 書評 -『レイヤー化する世界―テクノロジ ーとの共犯関係が始まる』佐々木俊尚

金曜日, 6月 14, 2013

著者が本書を上梓する為に、割いた時間は一年以上、読んだ本は200冊以上になるという。
二年前から定期購読していたメルマガを、読むのは時間が足りなくて止めてしまったけど、一年に一冊のペースで出版されている本は欠かさず読んでいる。ということで、発売日に読みたかったのでここ半年では珍しくAmazonで本を買うことになった。

タイトルからして『レイヤー化する世界』だから、さぞかし壮大なスケールになっていると思いきや、それについては序盤でさらった触れた程度で、世界史の教科書のような内容が始まる。この本の半分以上は世界史と文明の説明部分に割かれている。各章の前には、妻である松尾たいこさんの見開きの挿絵や、その章にまつわる小説をはさみつつ、文体自体も説教じみていないし、丁寧に書かれてあるので学生にもお薦めだ。テーマ的には、新書よりもハードカバーの方が良いと感じるが、それも野暮ったいのかもしれない。

前半は人類の繁栄は加速的で、汎用技術の普及が世界を変え、生き方を変え、文明の進化を押し進めて来たというのがおおよその内容である。特にこの部分ではモンゴル帝国が世界を緩やかに支配していたこと、帝国自体の認識の誤解、イスラム教やイスラム文化の誤解、ヨーロッパで生まれてから現代まで続く国民国家という概念の解説が面白かった。特にイスラームについてはかなり興味深い。国民国家が、世界では中世以降、日本では明治時代からというのは、「そんな最近だったのか...。」と、人によっては衝撃を受けるのかもしれない。

第三章からの要点はインターネットの登場と超多国籍企業が世界を結び、その構造が人々の生活や価値観を変えてしまうということだ。それをゆるやかで、なだらかで、なめらかに形成されていた帝国による支配されていた前半部分に共通項として見つけることが出来る。しかし、当時の帝国の上からの支配とは違い文明的に栄えた「場」の支配は、飢えや病気に怯えて暮らさないといけない訳ではなく、下から支え続けるという所が根本的に違うこともまた分かる。それをイメージするなら、趣味思考の違う人類全員が、違う人のままを保ちながら繋がりあうということである。

このことについて、ぼく自身の問題意識として、非協力ゲームでは、全体最適ではない部分最適になるナッシュ均衡になる現状の世界を、上手く繋げ(協力する)流動性を上げることで全体最適になるとゲーム理論で考えていて、その辺の感覚と一致させることが出来て面白かった。しかし、皆が繋がった状態といっても、インターネット上のやりとりには、物理的な制約がほぼないので、実際にそのレイヤー間のコンテンツしかり、プラットフォームすらも革新され続けるし、時代により最適化し続ける。

だから、ぼくたちは固定概念に固執せずに変化することを拒まずに生きていかなければならない。
その為に必要なのは、世界の流動性を自覚しておくこと、しなやかで折れない刀のような二重構造を持つ個人を確立することである。

著者のツイートを引用する。

本書は、経済、IT、世界史など、いろんな要素を持っているので、この先様々な場所で引き合いに出されることだろう。2011年の『キュレーションの時代』ではインターネットの普及で世界中に広がるビオトープ(生息帯)や、普段触れることが出来なかったものと出会えるセレンディピティに触れ、昨年の『当事者の時代』では、当事者と非当事者が入れ替わり続ける中で、グレーな中で生きていこうと説いた後に、今作『レイヤー化する世界』では、現状認識から、勝ちも負けも大も小も入れ替わり続けるこれからを書いて完成した感がある。三つ束ねるからこそ新たな意味を持つ前二作も必読であろう。

★★★★☆


今回フォントの実験してます。フォントって重要でWindowsで見た時のフォントの汚さにびっくりして今回はヒラギノフォントを指定していますが、文字化けしたりしたら元に戻します。
特に効果が無かったのでHelveticaに戻しました。
レイヤーって今いち分からんという人もいるでしょう。
OSIの7レイヤーモデルを理解してる人は、その構造から本書のコンセプトも簡単に理解出来ると思うのですが、知らない人の為に図を引用して貼っておきます。興味を持ったら調べてみると面白いです。こっちの方が分かりにくいかもしれませんが...


http://www.washington.edu/lst/help/computing_fundamentals/networking/osi より

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