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中華と辺境 - 書評 - 『日本辺境論』内田樹

水曜日, 8月 07, 2013
日本辺境論 (新潮新書)
  • 作者:内田 樹
  • 出版社:新潮社
  • 発売日: 2009-11


本書に新しい視点はない。しかし、それは著者自らが冒頭から繰り返し触れている。
しかし、日本文化論を語るのにいきなり掃除の話から始めるのは著者のオリジナリティ以外何者でもないわけだが。

以前斜め読みしていた程度の本書を読みなおそうと思ったのは、次に書く予定の池田信夫の『空気の構造』を読んだからだけど、梅雨の時期に読み直しておいて良かった。
からっと晴れた午後に、若しくは綺麗な夕暮れに、あるいは蒸し暑い夜という夏ならもう読みたくない分類だからである。本書はざっくりした日本人論ではあるのだけど読んでいて気持ちが晴れやかになることはない。これはその他の日本を語った本もそうなんだけど、
場の親密性を自分自身のアイデンティティの一貫性よりも優先する
など、空気を読む構造は読んでいて腑に落ちる部分も多く、それが「日本人のそういった部分は今後もどうしようもないのかも。」という暗澹とした気持ちになる。本書はその他と比べると割りと明るい感じではあるのだけど。

本書のポイントは、日本は新しいものを常に内部ではなく外部に求めることということだろう。これは日本では初期仏教(上座部)よりも大乗仏教が普及しているせいではという気がしなくもない。
他国と比較してしか自国を語れないというそういった個性が著者が、陽に対して影、中華に対して辺境と日本を名付ける所以だ。初期設定がないコンピュータとも言えるだろう。
それらを知るためには日本がどういう風に成り立ってきたのか、歴史を知らない限りは難しいかもしれない。そして、処方箋としてこれから外部に答えを求めないということを目指すならどうすれば良いのかは本書にも書いていないし、かと言って海外を模倣することは出来ないし、というと禅問答のような気もするが、つまりは漸進的改善しかないということなのかもしれない。

ぼくが読んだ中で本書に書いてあるような内容以外の新しい視点の日本人論を読んだ試しがない。勿論、歴史的事実や背景を丁寧に描写して書いてある本もあるので、程度の違いはあれど、ぼくの教養が足りていないだけなのかもしれないが。日本人論に違いはほとんど感じられないのだ。しかし、こういう視点の本も必要であるということだけは分かるので少し歳を取ったのかもしれない。
そして、本書はこれ以外にも、便所掃除がなぜ修業なのか、武道的な天下無敵の意味、表意文字と表音文字など面白い頁が結構あるので是非読んで気になる人は一読を。

★★★★☆

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