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「まと」の理解 - 書評 - 『日本経済の不都合な真実』辛坊 治郎,辛坊 正記

土曜日, 3月 23, 2013
アベノミクスで言われる三本の矢。
財政支出、金融政策、成長戦略の三つであるが、矢は三本でも百本でも、的を射らなければ意味がない。
まだ安倍政権は始まったばかりということもありこのブログでも触れていない。
しかし、「的」が何なのかは理解しておく必要がある。



日本経済の不都合な真実―生き残り7つの提言
  • 作者:辛坊 治郎,辛坊 正記
  • 出版社:幻冬舎
  • 発売日: 2011-01
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怒れ!この国は本当に大丈夫か!?政治三流、経済二流―知らないではすまされない無責任国家のタブーとは?2011年が、日本再建のラストチャンス。
辛坊治郎氏の本を読むのはこれで2冊目で、こちらも前作通り正記氏との共著である。
リアルタイムで読んだ前作『日本経済の真実―ある日、この国は破産します』からわずか8ヶ月後に出版されている。
前作の内容の解説版(補強版)と言った趣は、前作を読んだ読者から難しいという指摘を受けたのがきっかけとも書いてある。
内容の方は何故日本で地を這うような低金利時代が続いているのか、黒字でも破綻する仕組み、金融政策の余地やデフレギャップ、増え続ける社会保障費など、日本に横たわっている問題点がズラリ。
東日本大震災の2ヶ月前の本ながら、主張していることは民主党から自民党になった今でも十分通用する。

混合診療の是非

興味を惹いたのは、P214からの「規制緩和を強烈に進めよ」の項からである。
ここでは辛坊兄弟の意見が割れているわけだが、大筋で対立している訳でもない。
医療の項で、兄の正記氏が指摘する通り、国が医療分野を成長産業にしたいというのなら足枷になっている医療機器の規制を見直し、日本の病院には卸せず海外に売るしかない日本メーカーが伸びる環境作りを推進すべきである。
他方で、辛坊次郎氏の反論は実体験がベースである。
辛坊氏の少年時代から混合診療が認められていない中、歯医者では古くから認められている。
そして、「保険がきかないが良い素材を使った良い治療」
「保険がきくが持ちも見た目も悪い治療」のどちらにするか迫られ、当時お金のない辛坊少年はもちろん保険内治療を選択するとその歯医者に「チッ」と舌打ちされたそうだ。
これは例えになるが、混合診療の解禁になった時にこのような事例が起こったりしない保証はどこにもとする。
その為には新たな制度設計が必要である。
医療費を原則全額無料にしたイギリスでは手術まで数ヶ月待ちだし、アメリカ式なら1泊2日で下手をすれば100万円かかる。
日本はその意味では進んでいるが先進医療を受けられにくい仕組みなのは改善する必要がある。
この難題を解決するには保険適応内で出来る医療の審査のスピードアップは望まれるが、産業界とまったく同じような規制緩和の仕方だとモラルハザードも引き起こしかねない。
今まであまり考えていなかっただけに、どのように仕組みにすれば良いのかと読了後に考え込んでしまった。これについては色々情報を集めてみようと思う。
しかし、そこまで言って委員会の辛坊氏の本と言うのに、笑える点がない。
ケインズとシュンペーターをイタコ(イクコ)として呼び出して、互いに説明させる項が唯一ぐらいだと思われる。
経済学をまったく知らない人でも有名な二人をなんとなくでも理解して、どっちの方が良いと思うか指標が判断出来るかもしれない。

書かれていない所

粗探しをしてもしょうがないが、辛坊氏の本を読んだきっかけは「たかじんのそこまで言って委員会」を見て知っていたのでたまたま読んだのがきっかけだけど、こういう本を読む層はやはりそんな人達なんだろうか。
テレビに出ている人の言うことは聞くという人達が読むのだろうかと書くと皮肉が過ぎるか。
本書の指摘することは大体個人的に考える点と同意見だがテクノロジーの進化についてまったく書かれていないことなど物足りない。
それでも「的」の理解するには十分である。

★★★☆☆

本書をきっかけにしてさらにハマりたい人は池田信夫氏の


希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学
  • 作者:池田 信夫
  • 出版社:ダイヤモンド社
  • 発売日: 2009-10-09

をオススメする。こちらの方が全然専門的だが、ITも出て来るしより深く理解出来るだろう。自然率など理解しておいて損ではない項目も多く、アベノミクスをニュースを見て判断出来るようになると思う。
理解しにくい人は、池田氏の本を読んでからまた『日本経済の真実―ある日、この国は破産します』から読み直しても良いかもしれない。
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