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誰もが裸の王様 - 書評 - 『「中卒」でもわかる科学入門』小飼弾

金曜日, 3月 15, 2013
初めに、中卒でも分かるというタイトルから想像出来る程、簡単な本ではない。
今回は今年2冊目の小飼弾氏の新書である。
発売日は、こちらが先。


「中卒」でもわかる科学入門
  • 作者:小飼 弾
  • 出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2013-02-09


3.11の震災で「裸の王様」が裸だということが白日の下に晒された例に事欠かなかったし自身が裸の王様であることにも気付いたとする著者。
そして、情報が反乱する中、科学リテラシーが必要だと説く。
四則演算(+-×÷)で科学を捉えようという著者の主張はまったくその通りで、「あるかないか」の定性的なものではなく、「どれだけ、どのくらい」という定量的に扱う必要性を説いている。
脳みその凝り固まった大人達の方が仮に『大卒』であっても簡単な問題を解くことが出来ないのだという。
ある道路を行きは60km/hで、帰りは40km/hで往復しました。この時の平均時速は? 

1日で倍の面積になる蓮の花があります。ある池の半分まで蓮の花で埋まるのに1週間掛かりました。蓮の花で池が完全に埋まるまで後何日か掛かるでしょう? 
というのが 例題として出されている。すぐに答えが出せる人もいるだろうが、自分は間違えた(笑)

著者の主張したいことは四則演算という簡単なもので科学が簡単に分かるではなく、「四則演算を舐めるな。そして現実で使ってこそ意味がある。」ということであろう。
この辺りの主張はp50からの"「ナンボ」で考える"の項が分かりやすい。
後半はエネルギー問題について移っていくのだが、これは著者のブログでも取り上げられていたことも多く、それらをまとめ再編集したといった所である。
科学は「趣味」であるべし、「暇」が科学を進歩させる、などは考えさせられるテーマであるし、暇というものが科学だけでなく文化を作ってきたのは歴史が証明している。

エネルギー放題になると世界の諸問題の大半を解決出来るとかは、我が意を得たりだと思った。
原発と太陽エネルギーについても、やや原発に否定的ながら、次世代原発である高温ガス炉であるHTTRの可能性に触れているなど比較的中立的でもある。
しかし、原発を今止めているとしてもメンテナンスや維持を長期間でする必要はあり、そこで働く技術者達が機械化される訳ではなく、その「人間」達のモチベーションや能力を維持する為の施策に全く触れていないために説得力に欠いているのが少々気になった。
シンドラーという会社を覚えているだろうか。
エレベーターの死亡事故があった会社と言えば思い出す人もいるだろうか。
シンドラー社は2006年の事故以降は新規受注はなく今まで販売した製品の保守メンテナンス専門の会社になっている。
しかし、新規受注がないということは先細りでジリ貧であるということと同義。
それ以降では死亡事故はないものの閉じ込めや緊急停止などが事件前よりも頻繁に発生している。
では「原発は?」っというのが2011年から思っている自分の意見である。
その為には、この先の原子力政策に関わる人達がロードマップや可能性を提示していく必要があると思うのだ。その人達のことも、著者の言葉でいう「自分事」であると捉えるしか、本質的な安全を求めていることにはならない。
...っと脱線したが、著者自身がどのあたりがどれぐらい裸の王様であると思ったのかを、もっと詳細に書いて欲しかった気もする。
しかし、最近の著者のブログはプログラム関連のエントリーばかりで物足りなかったが、本書で政治的主張を一気に読むことが出来て嬉しかった。そして、「弾さんの場合はたまたま中卒なだけでしょ?」とタイトルを見ても本書を読んでも思ったのが正直なところでもある。

自分も裸の王様であることが分かる本だ。

 ★★★★☆

 〈参照〉
http://ja.wikipedia.org/wiki/シンドラーエレベータ
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