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多様性と流動性 - 書評 - 『グレート・リセット―新しい経済と社会は大不況から生まれる』リチャード・フロリダ

水曜日, 7月 03, 2013

グレート・リセット―新しい経済と社会は大不況から生まれる
  • 作者:リチャード・フロリダ
  • 出版社:早川書房
  • 発売日: 2011-01-21

現在、世界情勢は国対国の競争から都市対都市間競争の時代へ移行している。そのことについて、より知りたくて読んだ。

昨年、自民党が再び与党に戻り、安倍政権が始動からの円安&株価上昇。目標インフレ率は2%と高い目標を掲げており、金融政策、財政政策に続く規制改革が待たれる所である。
しかし、本当にそれらがサスティナビリティ(持続性)があるのか。
増え続ける高齢者と年金や医療、介護、そして減り続ける若年者と限界集落の問題。
あるいは教育、育児などの問題。それらが解決し得るのか。

「グレートリセット。いつやるの?いまでしょ。」

本書の提言は、今までの重厚長大企業中心のスタイルを方向転換して、新陳代謝を促進しないとならないということである。しかし、どうすれば実現できるのか。
都市社会学者による著者はリセットそのものよりも、グレートリセットの為に必要な都市の在り方が要点となる。リセット出来る仕組みづくりの為の本なのだ。

リセットには歴史がある。

まず第1のグレートリセットは1870年代で、農業の規模集約で人口の移転が進んだことで、大不況の前よりも遥かに経済成長は進むことになった。

第2のグレートリセットでは、1930年代の世界大恐慌を乗り越え、本格的な工業社会へ転換していくことになる。最近では2008年のリーマン・ショックすらも乗り越えて米国は低成長とはいえ、日本よりも高い成長率を今も維持し続けている。

日本の都市と言えば東京(TOKYO)である。しかし、著者は日本は安全で清潔で食文化も豊かなのに、ロンドンやニューヨークのかわりには成り得ないとしている。理由として、まず挙げられるのは人材の多様性である。日本の企業でも外国人労働者が増えているとはいえ、まだ7%にも満たない。未だに女性役員を増やすべきなど議論しているレベルである。海外の人達を受け入れる土壌作りなどが全く進展していないのである。

これについて思うのは、元々日本という国は、多様な人種が流れ着いて出来たという歴史認識が国民にないというのも原因のような気がする。つまり教育の問題である。
無条件でTPP参加交渉に反対したり、最近では在特会のヘイトスピーチなども昨年当たりから盛り上がって来ていることからも、現在の日本には人種に対する多様な価値観を認めない印象を強める。外国人には日本特有の「空気」が伝わらないのも居心地が悪いのかもしれない。この日本特有の空気を読むという構造は池田信夫著『「空気」の構造 』に詳細な論考で書かれているので、興味がある人は読んでみるといいと思う。

閑話休題。さて、ニューヨークと言えば経済的に何が中心の都市かと考えると、オキュパイ・ウォールストリートからも分かるように「当然、金融だろう。」と踏んでいたのだけど、金融が占めるニューヨークのGDPに対する割合は14%前後しかないことに驚く。リーマン・ショックで沈んでいく金融業界を尻目に他業種の企業群が伸びることでニューヨークはその成長ペースを落としていないのである。まるで都市自体が生き物のようだ。

逆に、あるゆる企業が工場を構え、工業都市として栄えたデトロイトなどは、日本企業の躍進により雇用が奪われ沈んでいった。これは今、中国やアジア諸国の躍進で雇用が減っている日本の企業などにも当てはまることだろう。
その古臭い都市を変えるにはグレートリセットが必要である。人材の多様性、そして柔軟性や流動性が特に必要なことである。都市の在り方に対する答えは見えつつあるのだから、実現の工程を考えて、実行することが大事だと読みながら痛感した。

本書は、これからの都市国家を考える上で示唆に富む内容である。
本書を読んだのはボストンマラソンのテロ事件がある数日前の4月初週である。その他の都市もたくさん出てくるのけど、ボスウォッシュ(ボストン一帯)に広がるフィラデルフィアやボルティモア、ウィルミントンなどの都市に対して私の知識不足だったことも事実で、この本がきっかけで更に様々な都市について調べてみようと思う。

★★★★☆


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